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1990年。当時十代だった僕は生まれて初めてニューヨークを訪れた。NYが今ほど治安の良い街ではなかった頃である。ある週末、ブロード・ウェイのミュージカルを観終わり劇場の外へ出た頃には夜の十時を過ぎていて、僕は、宿へ帰るため地下鉄の駅へと急いでいた。駅の階段を降りると、そこは回転ドア式の無人改札になっていた。NYの地下鉄は、改札を一旦入ってしまえばあとはどこまで乗っても良いという、一律料金のシステムである。現在は、その料金の支払いには、「メトロカード」というプリペイドカードが利用されているのだが、当時は「トークン」と呼ばれる、コインのようなものを改札に投入して入場するようになっていた。無人改札の場合、改札機を飛び越えるなどの不正入場を防ぐため、回転ドア式の改札機が設置されていて、トークンを投入することで、ドアが回転するしくみになっていた。そしてこのような改札から入場するには、予め有人の改札でトークンを買い、所持していることが前提なのである。僕は当時いつも「10パック」という、10個入りのパックでトークンを買っていたので、ポケットにはたいてい、何枚かのトークンが入っていたのだが、その時に限っては1枚も持ち合わせがなかった。一旦外に出て、有人の改札から入らなくては。来た方向に戻ろうとして振り向くと、いつの間にかその先に、怪しげな男が立っていた。わざと後をつけてきたらしい雰囲気を感じたので、僕はその場に硬直してしまった。周囲には他に、誰もいない。男が近づいて来る。強盗に違いない。
きっと懐から銃かナイフを取り出して「金を出せ、腕時計もだ」とでも言うのだろう。ともかくここは金を渡して、彼がおとなしく去ってくれることを祈るしかなさそうだ。ところが彼は意外な行動をとった。僕の横を通り過ぎると回転ドア式改札の横にある格子戸の側まで行き、鍵穴に鍵を差し込んだ。そしてガチャンと音がして格子戸が開き、彼は少し自慢げな顔をして僕を見た。何のつもりだ?そもそもどう見ても駅員ではない彼が、何故合鍵なんか持っているんだろう。状況が飲み込めない僕に、彼はアゴで「ほらよ、開いたぜ」というふうに合図をしながら、手の平を差し出して料金を請求した。少なくとも彼が強盗でないことが分かってほっとしたが、まだ油断はできない。もしかしたら強盗並みの法外な金額を請求するつもりかもしれない。「いくら?」恐る恐るたずねてみた。そして彼の答えを聞くなり、僕は彼のことがすっかり気に入ってしまった。 「1ドルだ」 当時、地下鉄の料金は1回1ドルであった。彼の商売が合法的ではないのは明らかなのだが、請求する金額は至ってフェアーなものではないか。そしてここまでこちらのニーズを掴んだ商売となると、粋にすら思えてしまう。1ドル紙幣を手渡す。 「ありがとう、よい週末を」と見送る彼に「あなたも」と応えてその場を去り、あれから15年。 僕と彼の「不正行為」に時効が正立したかどうかはわからないが、 あの週末は僕にとって確かに「良い週末」の思い出として、甦ってくるのだ。
by deepblue-ryu
| 2004-11-27 00:00
| ■写真(+Essay)
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