Calendar
CONTENTS
■TOP
(このブログのTOP) ------------------------- ■MENU<目次> (過去の記事はこちらから) ------------------------- ■DEEPBLUE PHOTOGRAPHY (NYと世界の風景写真) ------------------------- ■PROFILE ------------------------- ■MAIL はこちら ------------------------- ■写真の転載利用について カテゴリ
■目次
■写真 ■写真(B級) ■写真(+Essay) ■写真(カメラ・機材・撮影) ■旅行記/旅行 ■食べ物(海外・国内) ■日常 ■映画・音楽・アート ■お気に入りグッズ ■好奇心 ■Portfolio タグ
フォロー中のブログ
最新のトラックバック
以前の記事
2009年 09月
2008年 04月 2008年 03月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 more... 検索
ライフログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
先日のこと。カオサン通りを歩いていると、背後から現れた男が、僕の数メートル先を歩いていた女性のバッグをひったくり、強引に道路を渡ると、向こうの路地へあっという間に消えてしまった。彼女は何かわめいたあと振り向くと、そこに居あわせた僕に話しかけてきた。「見てた?」彼女は二十歳ぐらいだろうか、いや、もっと若いかも知れない。安っぽいタンクトップと、ミニスカートはシワだらけで、しかも汚れていた。顔立ちは自体は悪くないものの、その表情からは、貧しい生活から滲み出るような、卑しさとか、険しさのようなものを感じさせた。
「見てたよ・・・」警察に届けるから、目撃者として同行して欲しい、と言う。事件は事実だし警察署もすぐ近くなので嫌とも言えず、同行してやることにした。しかし彼女は悪い人間ではなさそうだが、あまり信頼のおける相手でもなさそうなので油断は禁物だ、と自分に言い聞かせる。 「わたし、パタヤのビースに行ってたの」「何?どこ?」「パタヤビース」ああ、ビーチのことか。タイ人はビーチのことをビースと発音する人が多いらしい。僕の知る限り、彼女を含め三人のタイ人が「ビース」と言った。警察署に到着するまでの1分か2分の間に、彼女は昨日までビーチで優雅に過ごしていたこと、彼女は数ヶ国語を勉強する勤勉な学生であること、父親は医者で金持ちであること、ひったくられたバッグは本物のルイ・ヴィトンでとても高価だったこと、中には大金が入っていたことなどを話したが、どれも「話半分」どころか、嘘八百を並べているとしか思えなかった。ひったくりもひったくりだ。こんな乞食のような少女のバッグの中に、一体何が入っているというのだ。彼女の、バッグを持っていたのと反対側の手には、象の絵の描かれた透明の、しわくちゃになったビニール袋があって、ビニール袋は何故か真ん中あたりに、炎で焼け焦げでできたらしい、こぶし大の穴が開いている。袋の中には、水着らしきものと、化粧品、破れた紙くずのようなもの、そして、半分ぐらいまで燃えてしまっている20バーツ紙幣が入っているのが見えた。 警察署に到着し、彼女が懸命に事件のことを訴えるが、予想通り、警官は頭を縦に振ったり横に振ったりするだけで、とても本気で捜査をする様子ではない。ともかく話を終え、警察署を出る。「じゃあ、行くから」歩き出すと、彼女は僕の腕をつかんでついてきてしまった。「わたしは今日、全てを失ったの!」「うん、気の毒だったね」「あのバッグは本物のルイ・ヴィトンで・・・」「うん、知ってる。本当に気の毒だったね、じゃあね」「待って!」手を離そうとしない。 「私、家に帰るお金もないの」「遠いの?」彼女が地名を言うが僕にはわからない。話しを聞いてみると、ここからバスで一時間、料金50バーツの場所だと言う。そうか、バス代をくれ、というわけか。「つまり50バーツ欲しいのね?」日本円にしておよそ150円である。「違うの。帰りたくないの」「なんで?」「アイ・ライ・ユー」ライ?何?「アイ・ライ・ユー!」もしかしてライクと言っているつもり?そうか・・・バス代どころか、たかれるだけたかろうという魂胆か。そういうつもりならこちらもそれなりの対応をしなくてはならない。「ドゥユライ・ミー?」ノー!家に帰りなさい!しかし彼女はまだ僕の腕をしっかりと掴んで離さない。「アイ・ライ・ユー。あなたの部屋にステイしたいの。アイ・ウォン・シャワー・ウィズ・ユー!」呆れたね。そこまでやるつもりか。部屋から金目の物を持ってトンズラしようったってそんな手に乗るもんか。こっちは海外旅行には慣れていて、君のようなインチキ人間は色々見てきてるの。仮に君がインチキ人間でないとしても、僕は君にまったく興味がないの。だからそんな手は100パーセント通用しないわけ。そういう作戦ならもっと馬鹿そうな相手を選んでやりなさい。それとも僕はそんな馬鹿に見えるわけ?あ、そうかそうか、君が馬鹿なのか。それじゃあ仕方がない。 「ホワーイ?ホワイユードンライミー?」どうしてもへったくれもないでしょう?「ホワーイ?ホワーイ?!」しつこいなあ!しかも頑なな態度の僕に、彼女は機嫌を損ねはじめ、次第に逆切れ寸前といった雰囲気になってきた。こっちもイライラしてきたし、こうなったら力づくでこの腕を振り解いて、追い払うしかあるまい。・・・しかしその時、先日知人から聞かされた話しを思い出した。「タイ人に対してものを断るときはやんわりやらないと、怖いから気をつけたほうがいい」そうか・・こんな人の多い場所で逆切れした彼女に「痴漢よ~!」とでも叫ばれたら厄介なことになる。トラブルは願い下げだ。アメリカの映画に登場するタイの警察はたいてい、無実の外国人を逮捕する。そして裁判官はたいてい、問答無用で無期懲役を言い渡す。そして刑務所では・・・・そこまで連想している自分が可笑しくなったが、ともかくここはひとつ冷静に考えてトラブルを避けねば。・・・そうだ、この作戦でいこう。 「あっちへ行こう」方向を変えて警察署の向かいにある寺院の敷地へ向かう。あそこなら人通りも少なく、万一彼女が妙なことをわめいても、状況がこちらに悪く働く要素は少ないだろう。彼女は僕が方向を変えたことで、部屋へ向かっていると勘違いしたのか、態度を軟化させてきた。僕は歩きながら、作戦の下準備として、なるべく笑顔をつくりながら彼女に接し、なおかつ「ノー」と言うのをやめることにした。こんなわけのわからない女を相手に押し問答をしていても拉致があかないし、逆切れされても困るのだ。ケビン・スペイシーの映画「交渉人」でも、人質を取って立てこもる犯人との交渉に「ノー」という言葉は禁物だ、という話しが出てきたではないか。だからといって、彼女の問いかけにむやみと「イエス」とも言えないので、とにかく曖昧な返事をすることにした。「キャナイ・ステイ・ユア・ルーム?」「ん~~~~~」「ドュユライミー?」「ア~~~~~」「イエス?」「ンーーーーー・・・」"トラブルを避けるためには毅然とした態度で振舞うこと"旅行のガイドブックには必ずと言っていいほどそう書いてあるが、必ずしもそれが有効でないことを、僕は経験上知っている。 僕の宿は寺院の反対側の出口を出たところにある通りの、さらにもう一本向こうの通りにある。寺院の境内の中ほどに差し掛かると、出口が見えてきた。距離にして50メートル。 今だ!! 一気に彼女の手を振り解くと、出口へ向かって一目散に走る。普段、食事などのためだけに外出するときはサンダル履きなのだが、今は撮影の帰り。スニーカーを履いているので好都合だった。その分背負った機材が重いのだが、サンダル履きの彼女に追いつかれるほどの負担ではない。出口を出て通りをかなりの距離走ってから、振り向いてみるとすでに彼女が追ってくる気配はない。彼女が何かわめくかも知れないと思っていたが、それもなかった。やれやれ。喉が渇いたのでセブン・イレブンでビールを買って部屋に戻る。走ったあとのビールは格別にウマい。 僕はあの日以来、カオサンロードへ行く時には、 たとえ食事のためだけにでも、スニーカーを履いて出かけるようにしている。
by deepblue-ryu
| 2005-02-03 00:40
| ■旅行記/旅行
|
ファン申請 |
||